PROJECT STORY O2

時間もマンパワーも足りない、逆風を乗り越えて

神戸製鋼所 加古川製鉄所にスラグ統合破砕整粒設備を新設

MISSION

廃棄物だった製鉄スラグを、
資源に変えるために。
加工処理能力を増強・
統合する、新設備をつくる。

鉄鋼製品の製造工程で発生する製鉄スラグ。破砕、整粒、鉄分除去の品質加工によって、道路用路盤材料やビルのコンクリート骨材など、世の中のインフラ・環境の整備に役立つ資源に生まれ変わる。そのために、なくてはならないのがスラグ加工処理設備だ。
今回、神戸製鋼所が製鉄の上流工程を加古川製鉄所に集約することに伴い、分散するスラグ加工処理設備を統合・新設するプロジェクト(PJT)がスタート。新設備稼働までに与えられた時間は約13カ月。限られた時間の中で、多様なスラグの一括処理などの諸条件をクリアし、かつてないスケールのPJTを成功させなければならない。時間も人も絶対的に足りない。PJTを取り巻くその状況から、PJTを統括した藤原は「ずっと逆風が吹き続ける気がしていた」と振り返る。これまでにない統合設備の実現に向けて、独自の高度なエンジニアリング技術と「プラスαの発想」で挑んだ。

PROJECT MEMBER

  • プロジェクトマネジャー(PM)兼設計責任者

    藤原 昴

    Subaru Fujiwara

    機電事業部 プロジェクト本部 機械エンジニアリング部 機械技術室

    ■PJTでの役割
    PMとして計画・予算・進捗管理を統括。また、設計責任者として、設計担当者のフォロー、技術的指示、確認作業を担当。

  • 機械設計

    渡辺 真彦

    Masahiko Watanabe

    機電事業部 機械本部 機械技術部 加古川原料・事前処理技術室

    ■PJTでの役割
    機械設計図作成のための外注設計への作図指示・図面チェック・購入品手配を担当。

  • 電気設計

    片岡 潤也

    Junya Kataoka

    機電事業部 計電本部 制御技術部 銑鋼エンジニアリング室

    ■PJTでの役割
    電源供給・電気配線工事や付帯工事、制御ソフトウエアの設計・施工管理を担当。

更地につくる、
大規模なスラグ加工処理設備。
設計・製作・据付・
試運転をトータルに担う。

スラグをクラッシャで破砕するH系設備11基、スクリーンで篩い分けて粒を整える
F系設備5基のジェットコースターのように連なる搬送コンベヤ。かつてない大規模な処理設備が誕生しようとしていた。

藤原
破砕力の規模を増強すること。神戸・加古川両製鉄所で工程ごとに発生する多様なスラグを、統合処理できること。従来にない設備だけに当然、規模は大きくなるし、新仕様の設計も必要になる。初めてPMを任されるのが、これほどスケールの大きなPJTとは…。
渡辺
大きなPJTは初めてで不安もありましたけど、それ以上に携われる喜びの方が大きかったです。
片岡
私も入社2年目でいきなり、上司から「いい経験を積んでこい!」と言われて、電気系統の設計と現場監督を任されました。やるべきことが多く広範囲で、機械工事の工程も把握しないといけない。何をどう調整するのか、上司・先輩にサポートいただいて、本当に心強かったです。
藤原
工程設計、製作、据付工事、調達…。PJTの規模と工期のバランスを考えた時、絶対的に時間も人も足りそうにない。そう感じて、ずっと逆風が吹き続ける気がしていた(苦笑)。
渡辺
PJTが進むほどに、この規模を短期間でやる大変さと凄さを実感しましたね。それでも「何とかなる!」と思えたんです。PJTメンバーがみんな、次々とアイデアを出し合い、いいと思うことはどんどん実行しましたから。

新設備が稼働開始する2019年のタイムリミットまで、工期は約13カ月と短い。
限られた時間を有効に活用しマンパワーも補うために、新たな設計ツールに3DCADを採用した。

渡辺
3DCADを導入することで、図面チェックに要する時間が、半減どころか大幅に削減できました。設備の干渉部位や取り合い寸法が間違っていれば、自動でエラーを検出してくれる。図面の束を突き合わせるチェックの手間が不要になって、エラー修正と、構造、安全性、強度面の確認だけで済みました。
藤原
新設予定の何もない更地に立った時、逆風を乗り越えるには経験値だけに頼らず、何か+αの発想で挑戦しないといけない、そう思った。そして、新たな設計ツールとして取り入れたのが、3DCADの活用。据付工事の段階で、取り合いがうまくいかず現場で途方に暮れる。そんなシーンをなくすメリットもあったしね。
片岡
一番怖いのは、それ。モノが揃って、現場で合わないと致命的ですからね、工期短縮には。
藤原
既設設備の改造・更新の設計・製作には、古い手描きや2DCADの図面がベースになるので、取合いや位置関係の3DCADへの反映が手間で難しくなるけど、新設なら3DCADで無駄なくすべて描写できる。突拍子もないアイデアに思えても、妥当性をしっかり訴えたら、上司もちゃんと聞く耳を持ち、認めてくれる。足りないマンパワーも、OBエンジニアのみなさんに協力を仰いで、快く協力してもらえた。こうした総合力みたいな部分は、コベルコE&Mだからこその強みだと思うね。
工程フローも外注設計の
管理ルールも新たに構築。
スラグ特有の処理が
問われた現場のアジャスト力。

新設備に必要な材料部材を自動集計できる3DCADのメリットを活かし、
工程フローもコンカレントエンジニアリングを新たに導入。
設備機器の設計と製作、据付を並行して進め、外注設計の管理ルールも構築した。

藤原
構造部の設計図から順に3DCAD化すれば、計画段階でも必要な材料を手配できる。その間に詳細図の作図も進めて製作担当にパスし、材料が揃った時点ですぐにつくり始めてもらう。同時併行するコンカレントエンジニアリングで、優先順位をつけて一気に工期を短縮できた。
渡辺
詳細設計では図面の描き方や基本構造などの管理ルールを、藤原さんが作成してくれたおかげで、外注設計への依頼や図面チェックがしやすかったですね。短納期ですさまじいボリュームの作図が必要なため、複数の外注設計に協力いただきました。複数の外注設計を管理するためにはルールが必要不可欠で、統一された図面を描いてもらうために、手本になる図面をメールで送り、電話で直接説明もしました。目に見えるカタチで設計思想を共有し、ブレのないように心掛けました。
藤原
詳細設計図だけでA1サイズが1200枚以上。全体で1400枚を超える図面を、工事開始直前の5ヶ月間で出図するには、外注先の協力は不可欠。でも、お客様の視点に立てば、すべてが「Made in コベルコE&M」だからね。新しい業務フローとルールの確立は、PJTの成否を左右する大事なポイントだった。実は、当時の記憶はあまりない。それぐらい、本当に駆け抜けた感じだね(笑)。

総延長が53000mに及ぶ電気ケーブル、破砕時の振動対策、搬送しにくいスラグの粘着性…。
工期終盤まで、破砕・運搬・制御の設備機能それぞれに、現場での調整対応に工夫を重ね続けた。

片岡
電気工事も機械設計の図面が基になるので、設計時から電気部材を落とし込んで調整を重ね、施工順も入れ替えました。電気ケーブルは、直径が太いものは66mmもある。重量に耐えられるように、考慮してもらいましたよね。
藤原
ダクトなど、ケーブルを通す場所を予め連絡してもらい、どの位置なら干渉するか、もね。
片岡
高さ10m超のコンベアにも、取り付けやすくメンテナンスもしやすい設計になり、工期短縮へ、中継盤を活用してケーブル単芯5本分を多芯1本分に減らす変更も行いました。それでも、電気室から全設備を制御するケーブルは、総延長で53000mにもなりましたけど…。
藤原
破砕設備も据付後、クラッシャの起動で発生する加振力による変位が大きいことが分かって、クラッシャを支持している架台の剛性強化を考えるのに苦心した。搬送の試運転でも、困ったしね。スラグは大きさや粗さ、物性的な粘着性の強弱が違っていて、コンベアでの運びやすさが変わってしまうから。
渡辺
流動性を示す、安息角の問題ですよね。
藤原
そう。F系設備で破砕するスラグは粘着性が強く、傾斜がかなりの急角度でも安定を保ったまま崩れず、山がどんどん高くなっていった。現場でも最後まで、どう攻略すればアジャスト(対応)できるかに、かなりのエネルギーを注いだよね。
+αを生み出すのも、
エンジニアの醍醐味。
「守破離」で描き出す
三者三様のスタイル。

2019年3月、試運転後の調整も終えたPJTは無事に完了する。
「その日」を迎えて、達成感に留まらない想いがメンバーそれぞれの胸に、湧き上がっていた。

藤原
リアルに出来上がると違うよね、やりきった達成感は。渡辺くんには何度も「絶対、無理や!」と愚痴をこぼしたけど、今は逆風の中をしっかりと駆け抜けた手応えがあるよ。お客様が「まさか、本当にできるとは。ありがとう!」と言ってくれたしね。
渡辺
確かに、愚痴は聞きました(笑)。でも、いつもどうすればできるかを考え、逆風に立ち向かう藤原さんの背中を見ていて、私も心が折れるわけにはいかないなと思い、尽力しました。
藤原
PMの責任感かな。チームのためにも踏ん張って、態度で示さなあかんと思ってた。思い出すだけで、涙腺がウルッと緩んでくるよ。でも、今はとても楽しみなんだ。このスケール感なら、google mapの航空写真でも見えるんじゃないかと。先に完成した電気室は見えてるし、早く更新されないかなって。
片岡
そうなんですか!
藤原
自分独りの達成感だけでなく、家族にも「カタチに残る仕事を、やったよ!」と報告できたら、嬉しいよね。

+αの発想と挑戦で得た技術的な成果に磨きをかけながら、メンバーはそれぞれに
「世界に通用するエンジニア」としての成長とキャリアアップへと、歩みを進めている。

藤原
今回のPJTの成果を、自分だけのもので終わらせたくないと思っていて。コンカレントエンジニアリングのフローに、図面設計・チェックの管理ルール。3DCADを既存設備の更新にも汎用化できるように、磨きをかけているところだよ。
渡辺
10年後、「F(藤原)モデル」と呼ばれているかも。
藤原
当社の技術スローガンは「守破離」。ルールを守ることから始まって、もっとこうしたらとブレイクスルーし、独自の+αを確立する。Fモデルじゃないけど、自分で考え、動き出す強さと度胸が大事だし、そんな挑戦を可能にする、人も技術も揃う会社だよ。
片岡
私は「守」の段階。電気エンジニアとして、目標にする上司や先輩が目の前にいて、その背中を追いかけるチャンスを活かしたいですね。
渡辺
藤原さんの真似は、今はまだできないので、しっかり見習っていきます。PMを任される存在になるように。
藤原
今はまだ、っていうのがいいね。いつかは越えよう、って気持ちが出てる(笑)。それに、真似じゃなく反面教師にした方が、渡辺くんならではの+αを生み出せるし、それもエンジニアの醍醐味だよ。
片岡
私も日本全国、いや世界中で、設計から現場監督まですべてを任される存在を目指します。
藤原
まさに「世界に通用するエンジニア」。私もみんなを巻き込んだチャレンジをこれからも続けていくよ。